介護業のファクタリング|介護報酬債権買取のメリットとデメリット
更新日:2020.11.18佐藤 隆道
介護ファクタリングの仕組み

現代日本の介護保険制度では、介護サービスにおける利用者の負担額は1割。
残りの9割は国が負担することになっており、後から介護報酬という形で、介護事業者に支払われます。
しかし、各事業所がこの介護報酬を受け取るまでにかかる期間は、なんと45日。
つまり介護業界では、実際の売上と入金されるまでのタイムラグが常に、約1.5ヶ月もあるということになります。
この介護業界の厳しいキャッシュフロー事情を支えてくれるのが、介護ファクタリングです。
介護報酬を受け取る権利である介護報酬債権を、ファクタリング会社に譲渡し、その買取代金として現金をもらいます。
つまり、介護ファクタリングを利用すれば、介護報酬を早く受け取ることが可能!
通常1.5ヵ月もかかる介護報酬債権の支払いサイトを、最短5日までに短縮できます。
早期現金化した資金は、人件費や備品の代金、事業所の家賃などにまわせるので、介護事業の資金繰りは平常時と比べてグッと楽になるという仕組みです。
医療ファクタリングは3社間取引
介護事業のように、売掛債権の請求先が国民健康保険団体連合会(国保連)であるファクタリングを総称して、医療ファクタリングといいます。
医療ファクタリングの対象としては介護事業の介護報酬債権などの他に、病院の診療債権や調剤薬局の調剤報酬債権などがあります。
通常のファクタリングでは、利用企業とファクタリング会社で契約を結び、取引先に内密で債権譲渡を行う2社間取引が一般的。
ですが医療ファクタリングでは、あらかじめ売掛先に承認・通知を得る3社間取引で行われるのが特徴です。
一般的な企業取引で2社間取引が好まれるのは、取引先から資金繰りを勘ぐられるのを避けるため。
欧米では資金調達方法として浸透しているファクタリングですが、あまりその文化が根付いていない日本では、
「売掛金に手を出すなんで相当経営が苦しいのか」
と経営を危ぶまれ、取引を中止されてしまう恐れがあるんですね。
しかし、キャッシュフローの厳しい医療業界では、ファクタリングは割とメジャーな資金調達手段。
業界人ならファクタリングへの理解がありますし、何より売掛先が国なので、取引を中止されるような心配もありません。
したがって、医療ファクタリングではあらかじめ、国保連に債権譲渡の通知・承認を得て行う3社間取引が一般的です。」
⇒ファクタリングの仕組みとは?基礎知識を徹底解説 ⇒ファクタリングの2社間取引と3社間取引の違い介護ファクタリングのメリット

現代日本では、銀行からの融資や消費者金融からの借り入れなど、様々な資金調達手段があります。
にも関わらず、ファクタリングを選んで利用することには介護事業においてどのようなメリットがあるのでしょうか?
そこで、介護ファクタリングのメリットについて紹介してきます。
- 約1.5ヵ月早く介護報酬を受け取れる
- 手数料が0.25%〜1%と割安
- 担保や保証人なしで利用可能
- 新規事業者でも審査に通りやすい
約1.5ヵ月早く介護報酬を受け取れる
3月1日に介護サービスを提供した場合、介護報酬が入金されるのは5月25日。
3月分の請求は4月に行うので、そのお金が入金されるのは5月下旬まで待たねばなりません。
つまり、国保連から介護事業者に介護給付金が支払われるには、通常2~3ヵ月かかります。
この売上金の発生と入金の間に生まれるタイムラグが、介護事業のキャッシュフローを苦しめる要因。
しかし、介護ファクタリングを利用すれば、最短即日〜5日で介護報酬を受け取り、資金化することができます。
導入月は2ヶ月分の介護報酬が入金される
最初に介護報酬ファクタリングを利用した月は、介護給付金が2ヶ月分入金されます。
先ほども説明しましたが、介護給付金支払いのタイムラグは常に1.5ヵ月。
例えば3月時点で介護ファクタリングを利用したとすると、2月分の介護報酬が申し込みから1週間前後に入金。
そして3月25日には予定通り、2月に請求済みの1月分の介護給付金が国保連から支払われます。
つまり介護ファクタリングの導入月は、介護給付金が同じ月に2ヶ月分入金されることになるので、苦しい資金繰りの打開策となります。
手数料が0.25%〜1%と割安
介護ファクタリングは、介護報酬債権の0.25%〜!
通常、ファクタリングの2社間取引は売掛債権の額面の20~40%です。
それに比べて、介護ファクタリングがなぜ1%未満という破格の手数料で利用できるのかというと、その秘密はズバリx回収リスクにあります。
まず、医療ファクタリングは売掛先に通知・承認を得て契約を結ぶ3社間取引。
取引先に内緒で契約を結ぶ2社間取引よりも回収リスクが低いので、3社間取引の手数料は5~15%前後とやや低めに設定されています。
そこからさらに売掛先の信用力が影響して、医療ファクタリングの手数料を安くします。
回収リスクごと売掛債権を買い取るファクタリングでは、売掛債権の確実性が審査で重視されます。
その点、医療系ファクタリングの報酬債権請求先は国なので、回収リスクはほぼ0!
介護報酬債権も医療ファクタリングの一部ですので、0.25%〜1%未満という割安の手数料で利用可能というわけです。
ただし、1度に全額が入金されるわけではない
医療ファクタリングでは、報酬債権の全額を買い取ってもらえるわけではありません。
ファクタリング会社に買い取ってもらえるのは、介護報酬債権の額面の一部。
その割合は掛け目といって、各ファクタリング会社によって異なりますが、大体80%前後に設定されていることがほとんどです。
なぜ、全額を一気に買い取ってもらえないのかというと、介護報酬債権は、必ずしも請求通りの額が支払われるわけではないから。
時として調整が入るのでそのリスクヘッジも含めて、残りの2〜3割は、国保連からファクタリング会社に入金された後、あらためて事業所に振り込まれるケースが多くなっています。
介護ファクタリング手数料の内訳
直接的にファクタリング会社に支払うことにある手数料は、額面の0.25%〜1%未満。
ですが、そのほかファクタリングには、契約時の内容証明・書留郵便代、振込手数料、印紙代などがかかります。
その費用を含めるともう少し手数料の総額は高くなるので、契約前にきちんとファクタリング会社に確認しておきましょう。
担保や保証人なしで利用可能
消費者金融からお金を借り入れたり、銀行からの融資を受けるためには不動産担保や連帯保証人が必要です。
しかし、ファクタリングは報酬債権を早期現金化する資金調達方法。
すでに、自社の流動資産をあてにした取引のため、担保や保証人なしで利用可能です。
⇒ビジネスローンとファクタリングの違い新規事業者でも審査に通りやすい
通常、金融機関での審査では、利用企業の信用力が調査されます。
起業したばかりや、事業拡大を考えているという介護事業者にとっては、大いに頭を悩ませる問題です。
しかし、ファクタリングなら審査の対象は売掛先。
しかも、売掛先が国となる介護ファクタリングなら、審査落ちする心配はほとんどありません。
したがって介護ファクタリングは、赤字決算や債務超過など、財務面に問題を抱えている介護事業者でも利用しやすいというメリットがあります。
⇒ファクタリングの審査ではどこを見られる?介護ファクタリングのデメリット

国からの報酬債権を早く受け取ることができる介護ファクタリングですが、もちろんデメリットも存在します。
介護ファクタリングを利用すべきか否かは、メリット・デメリットの両方について正しい認識を持った上で、じっくりと検討しましょう。
介護ファクタリングのデメリットは主に、以下の通りです。
- 介護報酬債権が満額手に入らない
- 社会保険の滞納があると審査に落ちる
- 使いすぎると資金がまわらなくなる
介護報酬債権が満額手に入らない
介護報酬債権は、本来の支払い期日まで待っていればその満額が受け取れます。
しかし介護ファクタリングは、それをお金を払って早期現金化する仕組み。
当然といえば当然ですが、介護ファクタリングは利用すればするほど、手に入る報酬債権額は少なくなり、そのぶん売上も下がります。
このため介護ファクタリングは長期的に利用するのではなく、創業時や事業拡大時など、一時的に出費がかさむ時期を乗り越えるために利用するのが賢明です。
使いすぎると資金がまわらなくなる
介護ファクタリングを利用すれば、通常回収まで40日かかる介護報酬を、申し込みからたった数日で手に入れることが可能。
しかしこれは逆に言えば、一度介護報酬ファクタリングを利用すると、次の入金までかなり時間が空いてしまうということでもあります。
特に介護ファクタリングの導入月は、1ヶ月で2回分の介護報酬が手に入るので、上手くキャッシュフローを調整しないと、後々自分の首を締めることにもなりかねません。
このように介護ファクタリングは、1度利用すると自転車操業のように利用から抜け出せなくなるリスクがあることを覚えておきましょう。
社会保険の滞納があると審査に落ちる
介護ファクタリングは、多少財務面に難がある介護事業所でも利用しやすいことがメリットです。
しかし、介護診療報酬債権は税金の差し押さえ対象。
このため、社会保険料などの税金を滞納していると、審査落ちしてしまうリスクがあります。
1度くらいであれば見逃してもらえる可能性が高いですが、何ヶ月も社会保険料を滞納していると、審査で弾かれてしまうので注意しましょう。
介護ファクタリングの利用の流れ

ここまで、介護ファクタリングのメリット・デメリットについて見てきました。
ここからは、介護ファクタリングを利用するにあたって、申し込みから入金までの具体的な流れについて見ていきましょう。
- 医療ファクタリング会社に申し込み
- 国保連に通知・承認
- ファクタリング会社に介護報酬債権を譲渡
- ファクタリング会社から介護事業者に入金
- 国保連がファクタリング会社に介護給付金を支払う
- 差額をファクタリング会社が介護事業者に入金
医療ファクタリング会社に申し込み
まずは、介護事業者が医療ファクタリングサービスへ申し込みます。
申し込みは直接電話するか、公式サイトの申し込みフォームをweb送信。
web申し込みの場合は、業者から折り返しの電話がかかってくるので、連絡を待ちましょう。
介護ファクタリングの必要書類
介護ファクタリングに申し込むと、その利用可否を決定するための審査が行われます。
審査を受けるためには、以下のような書類が必要となりますので、あらかじめ準備しておきましょう。
- 介護事業所の指定通知書
- 決算書(直近3ヶ月分)
- 商業登記簿謄本(2ヶ月以内)
- 法人印鑑証明書(2ヶ月以内)
- 支払い決定額通知書
まずは、利用する事業者の存在を証明するために、介護事業所の指定通知書が必要です。
介護事業所のパンフレットやHPのURLなどもあわせて送信すると、確認がスムーズでしょう。
そして、介護事業の経営状況を把握できるよう、直近2~3ヶ月分の決算書も求められます。
謄本や印鑑証明書などは、必ず有効期限内のものを提出してください。
また、審査支払結果帳票など国保からの支払額が分かるものが、ファクタリング可能金額を算出するために必要です。
もし、介護事業所が設立間もなかったり、審査支払結果帳票の類がまだ届いていない場合は、国保への介護給付請求書など、支払額の目安となるものを提出しましょう。
国保連に通知・承認
審査を通過すると、掛け目や手数料などの契約内容が業者から説明されます。
双方が契約条件に合意すれば、取引は成立。
医療ファクタリングは3社取引なので、売掛先の通知・承認が必要です。
介護報酬債権を譲渡する旨は、ファクタリング会社の方から国保連へ伝えてくれます。
ファクタリング会社に介護報酬債権を譲渡
契約を締結したら、介護事業者は国保連に、介護給付費請求書と介護給付費明細書を送付。
国保連はその内容について精査を行った後、介護サービス事業者に審査支払結果帳票を送付します。
この審査支払結果帳票に基づいて、介護ファクタリングの対象となる金額が決定、債権譲渡の手続きにうつります。
ファクタリング会社から介護事業者に入金
債権譲渡の手続き後に、ファクタリング会社は、介護報酬を介護サービス事業者に前払いします。
ただし支払われるのは全額ではなく、介護報酬債券額に掛け目をかけた金額(平均80%前後)です。
正確には、そこから手数料0.25~1%を差し引いた金額が、介護サービス事業者に支払われます。
国保連がファクタリング会社に介護給付金を支払う
医療ファクタリングは3社間取引。
3社取引では、売掛先が売掛金を、利用企業ではなくファクタリング会社に支払います。
このため本来の介護報酬債権の資金化日が来たら、国保連はその金額を直接ファクタリング会社に支払います。
差額をファクタリング会社が介護事業者に入金
ファクタリング会社が介護事業者に前払いしたのは、介護報酬に掛け目をかけた金額です。
リスクヘッジや、実際に支払われた介護報酬との差額を調整するため、2〜3割の金額はいったん残してあるんですね。
保留となっていた残りの2〜3割の金額は、国保連からファクタリング会社に介護報酬が入金された後、介護事業者に返金されます。
これで、介護ファクタリングの手続きは完了となります。
介護業のファクタリング活用事例

それでは、一体そのような事業者が介護ファクタリングを利用しているのでしょうか?
実際の利用者から体験談を聞き、その成功事例を集めました。
自身の境遇に似ているケースを探して、ぜひ利用検討の参考にしてみてくださいね。
ケース1 経営が安定化するまで利用
(43歳/600万/)
郊外で、小規模多機能型の老人ホームを運営しております。
創業時は、少ない入居者でも将来を見越すと、一定のスタッフは確保が必要。
それにくわえて初めの介護報酬は2ヶ月後の入金なので、開設当時はかなり資金繰りに苦労しました。
こういった事態を予想して手元には十分なキャッシュを用意したつもりでしたが、思ったよりも入居者数の増加は緩やか。
ヘルパーさんたちの堅実な努力もあって確実に売上は伸びていたのですが、長い支払いサイトである介護報酬が足を引っ張っていました。
そこで、経理と相談して3ヶ月を目安にファクタリング。
担当者の方が介護業界にも詳しく、同じようなケースの経営者の方のお話もたくさん聞かせてくれたので、非常に参考になりました。
経営もだいぶ安定したので、現在はファクタリング契約を解除していますが、またピンチの際には頼れる味方がいると思うと、それだけで心強いです。
ケース2 訪問介護事業所を増設
(51歳/1100万円/)
神奈川県で、訪問介護事業所を営んでおります。
地元の大阪にももう一つ介護事業所を立ち上げて、拠点を拡大したいと考えていたおりに、ファクタリングの存在を知りました。
経営は黒字で安定もしていたのですが、国からの介護報酬の入金サイトが足かせとなり、踏み切れずに早数年。
正直少し怪しいかなと思っていたのですが、このままタイミングを逸してしまうよりかは…と身を切る覚悟で利用させていただきました。
しかし、実際に電話してみると予想とは裏腹の、銀行のような丁寧な対応。
経営の話から資金繰りのことだけでなく、介護事業そのものにもとても詳しいので、信頼して相談することができました。
ファクタリングを導入した結果、無事給与や諸経費の支払いに余裕を持って対応することができるように。
キャッシュフローを調整して、まとまった資金を得ることに成功しました。
金銭的にも気持ちにも余裕を持って、事業拡大ができたのは、ファクタリングのおかげだと今でも感謝しております。
ケース3 最新のリハビリ機器を導入
(43歳/880万円/)
自立支援型のデイサービス施設を運営しています。
より本格的なリハビリができるよう、最新の機器を導入したかったのですが、それには今の状況だと資金繰りがギリギリ。
そこで、厳しい現状を打開するために、ファクタリングサービスを利用させていただきました。
ファクタリングでありがたかったのは、事務手続きが現在使用している介護ソフトのまま、必要最低限の作業で済んだことです。
介護給付請求書を送信するなど、今までとほぼ変わらない事務負担で資金調達ができるなんて、まさに目から鱗でした。
今でも設備投資には力を入れていて、他の介護事業者との差別化のためにも、今後も機器の導入は必須と考えております。
どんどん資金をまわしてくために、必要な時は思い切ってファクタリングを決断することも経営者の務めですね。
まとめ

介護業の売上は、国保連からの後払いがほとんどで、その入金には約1.5ヵ月かかります。
高齢社会で需要が高まってはいても、こういった現行の介護保険制度によって、介護業界の資金繰りは厳しい状態です。
その点ファクタリングなら、長期的な支払いサイトを最短2日〜5日まで短縮できます。
創業時の運転資金や設備投資、事業拡大を後押しする一つの資金調達方法として、覚えておいて損はないでしょう。